透析を受けられる患者さんへ
第3章 合併症
1.不均衡症候群
透析導入時によく見られる副作用です。透析を行うことによって体内での血中の老廃物が急激に除去されてきれいになります。しかし、脳の中の老廃物は除去されにくく、身体と脳との間に濃度差が生じます。 そのため、脳の中の老廃物を薄めようとして脳はどんどん水を吸いこんでいってしまいます。その結果、脳はむくみ、脳の内圧が高くなってしまうために頭痛やむかつき、嘔吐などを引き起こします。 これらの症状を不均衡症候群といいますが、透析に慣れれば徐々に起こらなくなります。 まれに症状が続く場合もありますが、これらを予防するには、やはり水分、塩分やたんぱく値の制限をきちんと守ることが大切です。
2.高血圧と低血圧
高血圧
高血圧の主な原因は、水分や塩分ののとりすぎにより、それらが十分に排泄されないために体液量が増加して起こります。体重増加に気をつけましょう。
低血圧
透析年数が長くなると、原因はまだよくわかっていませんが、次第に低血圧に移行することがあります。透析や日常生活に支障をきたす場合もあり、低血圧治療剤を使用します。またドライウェイトを検討することもあります。
3.貧血のときは
腎不全になると、腎臓で作られている造血ホルモンであるエリスロポエチンの分泌が低下し、貧血になります。また、血中の尿毒素が増加することによって出血しやすくなったり、赤血球の寿命が短くなったりすることも貧血の原因となっています。
検査データの見方
Hb(ヘモグロビン)は赤血球に含まれる成分で、Ht(ヘマトクリット)は血液中の赤血球の割合を示す値です。ともに貧血の状態を見ます。Hbは10.0~11.0g/dL、Htは30%~33%程度が望ましい値です。
症状
立ちくらみ、体がだるい、動悸、息切れ、狭心症症状などがあります。
予防・治療
- 1.エリスロポエチンの注射や、鉄剤の注射などが使用されます。
- 2.透析不足による尿毒素の増加をさけるため、十分な透析を行います。
- 3.血液を作る主な材料となる動物性たんぱく質(肉・魚など)を必要量摂取し、バランスのよい食事を規則正しくとってください。
- 4.血尿、痔出血、鼻出血、消化管出血、生理出血等による貧血もあります。このような場合はすぐに医師または看護師にお知らせください。
- 5.消化管の出血については、早期に発見するために、毎月検便をするようにしてください。また、毎日、便の色を見るようにして、便が黒っぽかったり、便に血液が混ざっていたりしたらすぐに医師または看護師に知らせてください。
4.呼吸器感染症(かぜ)
慢性腎不全では、感染に対する抵抗力が低下しており、かぜをひきやすく治りにくいことが多いようです。特に高齢の方では肺炎に移行する場合もあります。かぜ症状があればすぐに医師または看護師に知らせてください。
症状
検査
- 1.血液検査
- 2.胸部レントゲン写真を撮る(必要時)
予防
過労を避け、十分な睡眠をとり、偏った食事をとらないようにしましょう。また、日ごろから適度な運動を心がけ体力をつけることが大切です。特に、季節の変わり目や冬場の気温の変動には十分注意し、帰宅時にはうがいをするように心がけましょう。
治療
安静保温、感冒薬の服用、抗生物質の服用、注射、吸入などがあります。
5.二次性副甲状腺機能亢進症
慢性腎不全になると、リン(P)という物質が腎臓で排泄されなくなって高リン血症になります。リンが上昇すると腸でのカルシウム(Ca)の吸収が悪くなり、血液中のカルシウム濃度が下がってしまいます。そのため、カルシウム濃度を上げようとして副甲状腺という器官から副甲状腺ホルモン(PTH)という物質を分泌します。 副甲状腺ホルモンは、骨を溶かし血液中のカルシウム濃度を上げようとする働きがあります。この現象が続くと「もろくて骨折しやすい骨」となります。
二次性副甲状腺機能亢進症はどのように発症するのでしょうか
予防
-
1.高リン血症の防止
これはたんぱく摂取量によって大きく左右されます。透析によるリン(P)の除去は限られているため、リンを適度の値に維持するためには1日のたんぱく摂取量を体重1kg当たり1.0~1.2gにする必要があります。 - 2.骨の薬の服用
骨の薬
腎不全になると、尿中へのリンの排泄がなく、またビタミンDが腎臓で活性型ビタミンD3に変わることができないため、腸からのカルシウムの吸収が悪くなります。
その結果、血液中のリンが正常よりも高くなり(高リン血症)、カルシウムが正常より低くなります(低カルシウム血症)。
高リン血症が続くと、カルシウムとリンは仲がよいため、血液中でくっついてしまい、骨以外の場所でカルシウム沈着を作ります。カルシウム沈着は、関節の腫れや動脈硬化の原因となったりします。
低カルシウム血症になると、骨からカルシウムを溶かし出して、血液中のカルシウムを上げようとします。そのために、骨のカルシウムが少なくなり、骨がもろくなります。
高リン血症や低カルシウム血症にならないように、血液中のカルシウムとリンの値をコントロールするのが骨の薬です。
骨の薬は次の種類があります。
-
1.活性型ビタミンD3製剤
腸からのカルシウムの吸収を助け、血液中のカルシウムを上げる働きをします。 -
2.炭酸カルシウム
腸内で食物中のリンと結びついて便の中に出す働きと、血液中のカルシウムを上げる働きがあります。
○食事前か食事中に内服するようにしましょう。 -
3.重曹
炭酸カルシウムの薬効を高める作用があります。
また、酸性に傾いている体液を補正する働きがあります。
○毎食後(3回/1回)すぐに飲むようにしましょう。
☆骨の薬は、医師が検査データを見ながら処方しますので、指示通りにきちんと飲んでください。
体重1kg当たり1.0~1.2gが必要(体重50kgの人なら50~60g)
治療
- 1.薬物療法(炭酸カルシウム、活性型ビタミンD₃内服、活性型ビタミンD₃注射など)
- 2.副甲状腺摘出術(PTX)
- 3.副甲状腺内エタノール注入(PEIT)
6.アミロイド骨関節症
アミロイド骨関節症はどのように発症するのでしょうか
予防
- 1.関節の働きを保つため、手首や指の屈伸運動を行います。
- 2.十分に透析を行います(高性能ダイアライザーの使用、HDF)。
治療
副腎皮質ホルモンの内服、手術療法
7.アルミニウム骨症
アルミニウム骨症はどのように発症するのでしょうか
予防
- 1.定期的に血液検査をして体の中にアルミニウムがたまっていないか調べます。
- 2.アルミニウムを含んだ薬を長い期間飲み続けないようにします。
- 3.食事療法(低リン食)を行います。
治療
アルミニウムを除去するための点滴を行います。(適応外)